研究内容

<「眼」部門>

眼底血流

 視覚の維持には眼底血流を維持することが重要です.
 実際に換気を変えて動脈血の二酸化炭素濃度を変化させたり,バイアグラを投与して血流を 増加させると,それに伴って視力が増減することが確認されています(前者はH Labの業績).
 では,運動や精神作業中やその後に眼底血流はどのように調節されているのでしょうか.その変化は視力を変化させるのでしょうか. もし変化があるならば,それを元に戻すことができるのでしょうか.これらを中心に研究を進めています.



視覚刺激に伴う脳血流の動態

 視覚刺激(眼をあけたり,格子模様を見る)によって,また視覚刺激の複雑さに応じて,後大脳動脈の血流が1割程度増加します.
 これは,脳が視覚処理をするのに合目的な応答と考えられます.このような脳活動に伴う血流の増加をNeurovascular Coupling (NVC)と呼びます.
 運動や精神作業中には特に視覚情報処理が適切に行われることが重要です.では,NVCは,運動や精神作業中やその後に変化するのでしょうか. NVCは適切に保たれるべきと考えられますが,明らかではありませんでした.我々は運動時には適切に保たれることを 明らかにしつつあります.このメカニズムは単純ではないようです.
 眼底血流とともに視覚を保持する生理機能についての研究を進めています.



<「感覚神経」部門>

感覚神経からの刺激は,呼吸循環系の応答の調節に関与しています.その貢献の解明や応用を検討しています.



<「食」部門>

味覚,嗅覚,情動に応じた顔面血流の動態

 味覚,嗅覚,情動に応じた表情変化は,文化・時代を超えて,似ているということは,Charles Darwinの昔から指摘されています(昔といっても100年ちょっとですが). 一方,様々な言語に「顔色で情動を表す」表現が多々あります.
 顔色は概ね血流で変化することから,味覚,嗅覚,情動に応じて,顔面の血流が変化するのではないか,と考えました. そこで,味覚に応じた血流変化を観察しました.すると,おいしいと瞼周辺で増加,まずいと鼻で低下することが明らかになりました(2011年PLoS ONEに掲載. 朝日新聞など各紙で報道).
 情動や嗅覚刺激に対しても同じような応答が観察されるのかについても検討しています.
 顔面血流を用いて,個人が感じている味覚等を判別することは,言語コミュニケーションの難しい患者さんや高齢者との間での 簡易コミュニケーションのツールとして応用する上での長所があります.まず,表情変化は運動神経に由来するので,容易に隠すことが可能ですが, ところが,自律神経に由来する血流を意識的に隠すことは困難です.したがって,感じていることがそのまま表出しやすいと考えれれます.
 また,顔面の自律神経は疾病や事故によっても比較的保たれることが多いようです.なので,最終的なコミュニケーションツールとして 確保することが可能になると思われます.
 今後は,味覚刺激を用いて多数の方々にも適用可能かを検討して,さらに患者さんへの適用を検討していきます.



咀嚼が食事後の代謝と内臓血流量に及ぼす影響

 よく噛め,と言われます.確かに,よ〜く噛むと食事の量が(若干ですが)抑えられます.これは太ることを 抑制する一助となります.
 では,太ることを抑制する効果は,よく噛むことによって食事量が抑えられるためだけでしょうか.
 食後には消化管の運動が増加することなどに伴って代謝が上昇します.これはDITと呼ばれています. 実は,このDITは噛まないと起こらないのです(Jong et al. 1984).では,よく噛んだらDITは 増加するのではないでしょうか? 私達はこの仮説を検証しており,若干ながら,咀嚼がDITを 増加させる効果があることを明らかにしつつあります(投稿準備中).
 今後は,咀嚼を用いたDITの有効な増加法について検討していきます.同時に,内臓血流と代謝との 関連についても明らかにしていく予定です.



<再開の可能性あり>

運動や食事に対する唾液粘度の応答

唾液流量や粘度は自律神経に支配されている.これらの指標がどのように変化するのか, 循環応答を指標とした自律神経指標との違いはどうなっているのか,について検討している.

運動時の呼吸循環系応答の神経性制御

運動時には運動昇圧反射(フィードバック)とセントラルコマンド(フィードフォワード )という2つの神経信号が延髄に入力し,呼吸循環系応答の素早い調節に寄与している(こちらの説明参照). 現在は,これらの機構を解明するよりも,運動に類する刺激として用いている.



心拍変動

心拍1拍毎の揺らぎの大きさから自律神経活動を推定する方法がある. 顔面冷却が迷走神経活動を増大させ,心拍数を減少させることを明らかにした. また,乳児に顔面冷却や姿勢変化刺激を与えた際の心拍データの解析をしている.